映画「赤い雪」見ました@UPLINK吉祥寺

吉祥寺駅前PARCOの地下に、5スクリーン・全300席の、ミニシアター・コンプレックス「UPLINK」が、昨年末にできました。

私が見たいなと思う映画は、上映期間が短いものが多くて、大部分を見逃してしまうのですが、ここで見られるものが多いことを発見。

2月、ドキュメンタリー「ピアソラ 永遠のリベルタンゴ」をさっそく見に行き、心が震えました。

 

気になっていた新進監督の「赤い雪」が3月末から上映と知り、先日、見てきました。

長編映画初メガホンの若い監督だというのに、永瀬正敏、井浦新、佐藤浩市・・・という出演者の顔ぶれでは、それだけで気になるではありませんか。最終回後の、監督・出演者のトークショーにも惹かれて・・・。

 

暗い映画です。重い映画です(以下、映画の内容に言及しますので、見る予定の方はご判断下さい。)

 

何かを経験した人が、事実だと思っていることは、本当に「事実」なのか。

その思い込みの基礎となっている記憶のあいまいさや、記憶の欠落に、映像は真っ向から迫っていきます。

 

ある雪の日、1人の少年が、突然、姿を消します。

1人の女性が誘拐容疑者とされますが、完全黙秘で無罪になったらしい。

30年経ち、ある新聞記者が、その誘拐事件と、後に容疑者女性の身辺で起こった不審な火災事件の関係に気付き、事件を追い始めます。火災現場には、少年の焼死体もあったのです。

しかし、事件は全て時効で、闇の中。

記者は、両事件の目撃者であるはずの容疑者の娘と、失踪直前の状況を知っているはずの少年の兄に、迫っていきます。

 

容疑者であった母に虐待され、ネグレクトされて育った娘と、弟の失踪により家庭が崩壊した孤独な兄。

過酷な生育歴の2人は、その記者の登場により、直接、対峙して行くことになります。

2人は、何を覚えているのか、何を忘れてしまったのか、忘れたのは何故なのか・・・。

 

カラー映画なのにモノクロかと思うような、ロケ地山形県新庄市の雪景色が、主人公達の心の風景を際立たせます。

凄まじい生を余儀なくされた主人公達を描いているのに、見終わって2日たった今日、直後の悲壮感が薄れています。

「記憶」という難しいテーマに挑むため、主人公達に厳しい人生を与えてしまった脚本家甲斐さん。でももう一人、あの主人公達を愛おしむ監督甲斐さんがいて、あのスクリーンの裏側に、その愛が映し出されていたのか・・・と思えます。

 

様々な思いに沈んで見終わった後、甲斐さやか監督、主演の菜葉菜さん、そして記者役の井浦新さんがトークショーに登場。

その脚本に惚れ込んで豪華キャストが集まったとのことですが、監督の甲斐さんは、明るい、飾り気のない、とてもフランクな印象の方。

撮影時のことなど楽しそうに話されました。無駄な言葉のない、研ぎ澄まされた硬質の脚本を書かれた方とは思えない、柔らかい雰囲気の方でした。

そして、私の好きな俳優井浦新さん。Eテレの「日曜美術館」は、美術愛好家としてのキャスター井浦さんの感性に触れることができるのが、楽しみの一つでした。お話の弾み方は、俳優としてだけではなく、このようなご経験が生きておられるのでしょう。

主演の菜葉菜さん。こんなに小柄で華奢な方かと、驚きました。演技、ド迫力でした。俳優さんって、凄いと思いました・・・。

 

 

質問がある人にマイクを渡してくれたので、ちょっと図々しく手を上げました。

監督には、記憶の喪失・欠落ということと、記憶の変容ということをどのように考えておられるのかということ。俳優のお二人には、役が、自身の日常とかけ離れている場合(菜葉菜さん)と、比較的日常に近い役柄の場合(井浦さん)と、それぞれ、役への向き合い方がどのように違ってくるのだろうかと、お聞きしてみました。

 

監督は、ご自身の経験としても、記憶の変容は日常的にあること、ある意味それを受け入れなければ、人間生きては行けないほどのこともあるのでは、、、という深い洞察をなさっていました。

井浦さんは、結構長く、今回の役作りの中での変遷を含めてお話し下さいました。記者の素性が次第に分かってくるあたり、観客も役柄への印象が変わっていきます。観客のそのような変化を予想しながら役作りをされるようで、プロの仕事はそうなんだと、敬服。「二十六夜待ち」という映画で、記憶喪失者を演じておられた井浦さん。きっと、この映画で、深められた事がおありだったのではないかと思います。

そして菜葉菜さん。難しい役で、ひたすら監督の要望に応えること、応えきることであったと。これも、迫力あるお答でした。

 

3人とも、時間を取って、真剣にお話し下さり、感激でした。

 

閉館時間を過ぎるまで続いたトークショー。

お疲れだったでしょうに、プログラムへのサインをサービスしてくださいました。

私も列に並び、サインをゲット。井浦さんは、結構複雑なサインで、書くのに時間がかかるのです。それを厭わないで、丁寧に書いて下さいました。

甲斐監督には、思いがけず、「良い質問をありがとうございました」と言葉をかけられました。話したいことを話せる質問になったのかと、うれしかったです。

 

甲斐監督には、「女性監督」の「女性」はいらない。難解と言われることにたじろがず、このまま、まっすぐ、良質の映画作りに邁進していただきたいです。

井浦さん、これからも、ファンとしてフォローさせていただきたいと思います。

菜葉菜さん、次の変身が楽しみです。

 

 

 

投稿者:弁護士 酒井 幸

 

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