来年1月から,遺産分割調停や離婚調停などの家事事件についての新しい手続を定める「家事事件手続法」 が施行されます。先日,この施行に併せて,東京家庭裁判所の裁判官を講師に招いての,東京三弁護士会主催の研修会「家事事件手続法の制定を契機とした家事事件手続の在り方」が開催されました。
公園通り法律事務所でも,家事事件のご依頼を多くいただくため,参加して勉強してきました。
研修会では,家事事件手続法の施行に併せて,裁判所の調停・審判についての運用がどのように変わるのかという点について,詳しい説明がありました。これまでの手続とは「かなり変わるな。」という印象です。
調停の代理人をお引き受けするにあたり,ご依頼者を不安にさせることのないよう,しっかりと新しい手続を把握するよい機会になりました。
特に従来の手続と変わり,意識しておかなければならないと感じたのは以下の点です。
1 申立書等各書式が一新される
これまでは,申立書は比較的自由なスタイルで出すこともできましたが,来年1月以降はすべて新しい書式を使用しなければなりません。
東京家庭裁判所では,今年の10月から試行期間として,新しい書式の利用が始まっているとのことです。
※申立書の申立人欄には代理人記載欄がないので「申立人手続代理人等目録」に,送達場所は「連絡先等の届出書」に記載しなければなりません。
書式がかなり増えているので要チェックです。
2 申立書のコピーが原則として相手方にも送付される(家事事件手続法256条)
この規定は家事事件手続法により新設されたものです。従来,申立書は原則として裁判所のみに提出していましたが,これからは原則として相手方に送付されることになるため注意が必要です。
これまでは,手続の初めの段階から調停委員にこちらの主張について理解を深めてもらえるよう,ご依頼者から伺った経緯や事件のポイントなどをかなり詳しく申立書に記載していました。
申立書が相手方に送付されるとなると,離婚事件の場合など,こちらの主張が相手方を刺激して話し合いを難しくしてしまう危険性もあるため,詳細な記載は控えた方がよいという場合もあります(新しい書式も最低限の内容のみを記載する簡素な形式になっています。)。
代理人としては,手続の初めの段階で調停委員に事件をしっかりと把握してもらう機会がなくなるのかと懸念したのですが,裁判官からの説明では主張は別途「主張書面」に記載して積極的に提出して欲しいとのことでした。
「主張書面」はこれまでの調停手続でも活用していましたが,これからは,申立段階から,詳しい主張については「主張書面」記載して提出すればよいことになります。
「主張書面」は離婚調停や一般調停では,希望した場合のみ相手方に交付されることになるため,相手方に直接見られたくない主張も記載することができます(ただし,閲覧謄写との関係では要注意です※1。また,婚姻費用・養育費・遺産分割などのいわゆる経済事件・合意に相当する審判の場合には,裁判官の判断によって相手方に交付される場合があるそうです。)。
3 双方当事者本人立ち会いのもとでの手続説明が行われる
調停は,基本的に申立人と相手方とが交互に入室して調停委員と協議する形で進められています。調停成立時や,進行の中で当事者を同席させた方がよい場合など,双方当事者が同席する場面もありますが,ほぼ顔を合わせずに調停委員を挟んで協議することになります。
家事事件手続法の施行後もこのスタイルに変更はないのですが,東京家庭裁判所では新たに,毎回の調停の初めに当事者本人が同時に入室し,調停の手続やその日の進行についての説明を受ける手続が始まります(代理人がついている場合にも,本人の同席を求めるそうです。)。
この手続説明の場面,毎回当事者双方が顔を合わせることになるので,従来の手続とはかなり変わる印象です。
この手続の趣旨は,当事者双方に相手がいる話し合いであることを意識してもらうこと,裁判所が中立・公平な立場で調停を進めていることを理解してもらうこと,当事者どうしで情報を共有すること等にあるそうです。
配偶者のDVやモラルハラスメントが原因で離婚を求める場合など,調停の席でも相手と顔を合わせることが精神的に大きな負担となることがあります。このような場合には,事前に「進行に関する照会回答書」に事情を記載して,手続説明であっても同席は拒否する旨伝えておかなければなりません。
試行期間中は,同席に問題のない事案で実施されているとのことですが,代理人としては,ご依頼者の精神的な安定や安全の点から相手方と顔を合わせることを避けた方がよいケースでは,裁判所に積極的に事情を伝え適切な対応を求める必要があるな感じました。
この他にも,訴訟と同じように,提出資料に号証番号を付し,資料説明書(訴訟の証拠説明書と同じ書式でよいそうです。)をつけることが求められるようになる等,かなり訴訟に近い運用がなされることになるようです。
また,調停等の記録の閲覧謄写(家事事件手続法254条1項,6項)に関する規定・運用も大きく変わり,調停における資料提出段階で「非開示の希望に関する申出書」を添付しなければ,審判段階で,当事者の請求によりほとんどの提出書類について閲覧・謄写が許可されることになります(※1)。この点については,整理して投稿したいと思います。
今後ご依頼をいただく家事事件にあたっては,家事事件手続法の規定と新しい運用を押さえた上,しっかりと対応させていただきたいと思います。
改めて,仕事をしていく上で適切な情報更新・勉強を続けていく必要性を強く感じました。
これからも研修など,積極的に参加していこうと思います。
投稿者:圭