「書く」仕事をするということ−「日本語練習帳」「日本語の作文技術」,書く力を養う書籍のご紹介−

弁護士という仕事は,日々の業務の中で,非常に多くの文書を書きます。
私は,比較的訴訟業務が多い弁護士なので,裁判所に提出する準備書面を毎日のように書きますし,交渉案件では,こちらに有利に交渉が運ぶよう,タイミングに応じて様々な内容の書面を送ります。
メールやファクシミリでの連絡文書,ご依頼者への報告書も,数え切れない程書きます。

そんな毎日の中で,常に意識するのは,伝えたいことを
いかに正確に表現したわかりやすい文章を書くか,ということです。
依頼者に有利な解決を導くために,丁寧に事実関係を聴き取り法律論を組み立てることが,弁護士の仕事の主要な部分であることは言うまでもありません。
一方,せっかく聴き取った有利な事実を法的に適確に位置づけられたとしても,それを相手に正確に伝えられなければ,その効果は半減,あるいは0にすらなってしまいます。

語順,接続詞の使い方,句読点の打ち方,改行の要否,見出しの付け方,ナンバリングの仕方など,気をつけるべきことはたくさんありますし,「法律文書」として,通常の文書とは異なる専門的な配慮が必要な点もあります。
このように,留意すべきポイントを上げ出すときりがありませんが,わかりやすい文章であることの大前提として,日本語が正確に使われていることが不可欠だと思います。

私は,小学生の頃から,母に読書感想文を添削されていた記憶があり(あくまでも「感想」部分ではなく,文章の書き方部分のみ),今思い出してみると「てにをは」や,接続語の使い方など,みっちりと教わっていたように思います。
こんな経緯もあり,比較的「書く」ことには自信をもって学生時代を過ごしてきました。
しかし,ロースクールで学び,弁護士という仕事に就くことが現実味を帯びてくる中,不安に感じはじめたのが,自分が話し・書いている敬語が本当に正確なのか,ということでした。
そこから派生して,自分が当然のように使っている日本語は,本当に正しいのだろうかとも思うようになりました。
その不安を解消してくれたのが,この書籍です。

大野晋著「日本語練習帳」(岩波新書)1999

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国語学の大家である大野晋先生が,言葉の本質を正確にとらえることの意味,日本語の文法,文章を書くということの本質,敬語の基本的なルールについて,丁寧に解説しておられます。
また,「練習帳」だけに,それぞれのパートに練習問題がついています。
この本を読んで,それまで曖昧なまま使っていた言葉を,正確に使おうという意識が高まりましたし,丁寧に日本語を使おうと思うようになりました。
今でも,文章を書くにあたり,曖昧な点がある時,すぐに手に取れるよう,デスク後の本棚に置いています。

また,文章を書く「技術」に特化して,より詳細に「書き方」を紹介したもので,私がとても気に入っているのが以下の書籍です。

本田勝一「日本語の作文技術 新装版」(講談社)2005

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この本は,弁護士2年目に受けた,民事訴訟についての研修の際,講師をして下さった東京地裁の部総括判事が紹介されていたものです。
「修飾の順序」という章では,適確な語順とはどのようなものか,という点が論理的に説明されています。
語順を入れ替えるだけで,文章が飛躍的にわかりやすくなることを実感できます。
実際に書面を書いていても,読み返して語順を修正するだけで,書きたいことがクリアに伝わるようになることがあります。とても参考になる内容でした。
また,「句読点の打ち方」という章では,効果的な句読点の打ち方が解説されており,不正確な句読点の使い方をすることでどれだけ文章がわかりにくくなるのか,逆に正確に使うことでどれだけ文章がわかりやすくなるのかが,例文を示して解説されています。
私は,この章を読んで,日常的に書く自分の文章は「、」が多すぎるなと反省し,本当にこの「、」は必要かということを意識するようになりました。

書く仕事をするにあたって,手放せない2冊です。
母校ロースクールと成蹊大学ロースクールで,法曹を目指す後輩達の教育に携わりながら,「答案」という文書を書く受験生にも,ぜひ読んで欲しいと思う書籍です。

というブログを書きながら,このブログの文章がわかりにくかったらどうしようかと不安になりますが(笑)
これからも,書く仕事をするにあたり,文章力を向上させていけるよう,意識をもって「書く」ことを続けていきます。

投稿者:圭


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